白子川崖線の湧水ー地形から考えるー

湧水

練馬区から和光市に広がる湧水群、白子川の湧水について解説していきたいと思います。国分寺崖線や立川崖線の湧水と比べ、知名度は低いものの、豊富な水量を誇る白子川の湧水はぜひ知ってもらいたいものです。

初めに 白子川崖線とは
小寺 浩二,三井 嘉都夫『白子川流域における白子宿近傍の湧水』1990より抜粋

白子川は東京都練馬区の大泉井の頭公園を水源とし、埼玉県和光市、東京都板橋区を通って新河岸川へ注ぐ、延長10キロの一級河川です。上の図で番号が振られている地点が湧水のある場所です。国分寺崖線や立川崖線などと異なるのは、川の両岸に湧水があることでしょう。多摩川は流路が大きく変わっていますからね。

国土地理院地図

点線で囲った部分が白子川崖線になります。武蔵野台地を深く削っているのがよくわかります。

白子川崖線の地質
粘土質ローム層(下末吉ローム層)、黄緑色の層が武蔵野礫層

白子川崖線の湧水が湧く仕組みを解説します。東京都東部の湧水は多くが上の図のような湧き出し方をしています。上から順に透水性がそこそこ高い立川・武蔵野ローム層。そして二番目に不透水層の下末吉ローム層、三番目に透水性が高い武蔵野礫層、四番目に不透水層の東京層です。白子川崖線の場合、立川・武蔵野ローム層と武蔵野礫層から湧出しています。

青線より下が粘土質の東京層。上が礫を含む武蔵野礫層。

上の写真は和光市の滝沢湧水で見られる露頭です。武蔵野礫層と東京層の境目から水が湧き出し、東京層部分が湿っているのがわかります。

大泉地下水瀑布線とは

白子川崖線を語るうえで避けては通れないのが、吉村新吉先生が提唱した「地下水瀑布線」の存在です。

武藏野線石神井公園驛から練馬土支田町を経て二軒薪田に至る斷面石神井公園驛から練馬土支田町に至 る墓地に於ける地下水面は水平である。地表は北に行く程多少低くなるので地下水面は多少淺くなる。地下水面は石神井川とは釣合つてゐるが白子川の面よりは高い。 白子川の小支谷の谷頭に泉があつ てローム下部の粘土層の部分から僅かながら水参湧出してゐる事からも分るやうに5mばかり高くなつてゐる。從つて白子川に近い所にある井戸も餘り深くない。白子川よりも北の墓地に於ては地下水面は白子川の面と釣合つてゐるから深さは14mもある。これから白子川附近 に地下水漫布線が通つてゐると考へてよいやうであ る。

吉村信吉,『武藏野墓地東部大泉地下水爆布線及び附近諸地下水堆の地下水精査(2)』1943

要するに白子川のところで地下水面が下がっており、ここに地下の見えない「瀑布」が存在するということなのですが、あまりぴんと来ないかもしれません。

吉村信吉『地下水』1942

上の図は大泉瀑布から少し位置がずれるのですが、上保谷における地質断面図と井戸の深さを示したものです。こちらの図は地下水瀑布線を表すうえで大変わかりやすいです。青矢印の部分を境に、東西の井戸の深さが異なっているのがわかりますよね。すなわち、矢印西側は地下水面が高く、東側は低いのです。

この図が示す重要なところは、地上の地形に変化はない点です。従来地下水面は地上の地形に対応するとされてきた学説が、大きく転換する契機となりました。ちなみに地下水面が高く、水をアクセスしやすい場所には集落ができますので、社会学的に見ても重要な発見です。

余談ですが、こうした水文学における黎明期の発見を学ぶ上で、吉村信吉先生の『地下水』は大変参考になります。戦前の本で入手性は低いですが、ぜひおすすめです。

白子川崖線の湧水

最後に白子川崖線の主な湧水です。これから少しずつ記事を書いていきたいと思います。興味のある方はぜひ行ってみてください。

  • 八の釜湧水
  • 稲荷山憩いの森
  • 清水山憩いの森
  • 熊野神社
  • 滝沢湧水
  • 小島家の湧水

それでは。

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